税理士をしているとお客様から「どの業種が儲かっているのか?」というご質問をよくいただきます。
私の答えはいつも「業種にかかわらず儲かっているところは儲かっているし、儲かってはいない」というもの。つまり最後は個別の企業の問題だということです。
しかし、30年近く多くの業種を見させていただいた結果、そもそも業種によって潰れやすい業種と潰れにくい業種があることに気がついたのです。
潰れにくい会社を作るのであれば、そこから業種ごとにどんな特徴があるのか、何がビジネスモデル上の有利不利を決めているのかを分析する必要があるでしょう。
そこで、まずはビジネスモデル上の「金銭的な有利不利を分ける6つのキーワード」をここでまとめてみたいと思います。
「利幅の大きい会社と利幅の小さい会社では」どちらが金銭的に有利でしょうか?
聞くまでもありませんが、利幅が大きい方が有利でしょう。
この利幅が売上高に対してどれだけあるかを示したのが粗利益率です。
例えばメンテナンス業などのサービス業は原価となるコストが比較的小さいので、粗利益率は高め。
一方商社のような卸売業は、売上高は大きいものの粗利益率は低くなりがちです。
この利幅(粗利益)は、あらゆる企業活動の源泉といえます。給料や家賃、利息そして設備投資をまかなうからです。
粗利益率が低い場合、自分で販売をするとしても広告などの満足な販売促進費を捻出することができません。
また、販売手数料を支払って他人に売ってもらうにしてももともと粗利益が少ないので難しくなります。
当然のことならが売上高や利益自体を上げること自体難しいのです。
そのためこれから金銭的に有利不利を分ける6つのキーワードを説明いたしますが、その中でももっとも比重が高く、かつ他の要素にも影響を及ぼすものでもあるのです。
例えば、粗利益率の高低は、そのまま資金の立替にも影響します。
同じ1,000円の商品を販売したとします。この場合に粗利益率が90%であれば、原価率は10%ですので、原価は1,000円×10%の100円となります。
これが、粗利益率が10%であれば、原価率は90%ですので、原価は1,000円×90%=900円になります。
通常商品の販売の場合、先に商品を仕入れ仕入れ代金を支払った後に販売をし売上代金を受け取ります。
そのためこの仕入れ代金部分の立替をしなくてはなりません。
ですから同じ1,000円で商品を販売したときにでも粗利益率が高い会社よりも粗利益率の低い会社のほうが立て替えるべき資金が多くなり資金繰り上不利になることがわかります。
また、この資金の立替をするということは、この売上代金を踏み倒されたときには、その「実害」となる金額も大きくなるということを意味します。
ですから、粗利益率の高低というのは、金銭的な有利不利にもっとも大きな影響を与えるのです。
粗利益額があらゆる企業活動の源泉。
粗利益率の高低は金銭的な有利不利に最も影響を与える。
「運転資金」という言葉を聞くとどんなものを頭に思い描くでしょう?
ビジネスオーナーの方たちは「会社を運営するために必要な資金」のことだと理解しているでしょう。
しかし、本当の意味での「運転資金」というもの意味はちょっと違います。まずは、計算式で運転資金を表してみます。
運転資金=売上債権+棚卸資産ー仕入債務
ここでいう「売上債権」とは「いずれお客様からお金をもらうことのできる権利」のことであり、具体的には売掛金や受取手形のことです。
「棚卸資産」とは商品・製品・材料などのいわゆる在庫のこと。
そして「仕入債務」とは「いずれ仕入先などにお金を支払わなくてはならない義務」のことであり、具体的には、買掛金や支払手形のことです。
これらを「お金の動き」という視点から見てみます。
まず、売上債権とは本来商品の納品時にもらうべきお金をお客様に無利息で貸しているのと同じです。
仕入債務は全くその逆、商品の納品時に本来支払うべきお金を仕入れ先から無利息で借りているのと同じです。
では、棚卸資産のお金の動きとしての意味は何でしょう。
もう既に購入代金の支払いが済んでいるのであれば、まさに商品という形をした現金そのものといって良いでしょう。
通常のビジネスは、商品の仕入−仕入代金支払−倉庫に商品を保管−商品販売−商品代金回収といったサイクルを循環しながら営まれます。
つまり、「お金の動き」で見るなら、一連のサイクルを通じて、あなたの会社は「売上債権」としてお客様に無利息でお金を貸し、棚卸資産として商品の形で現金を寝かせ、一方で「仕入債務」として、仕入れ先から無利息でお金を借りているのです。
その結果、あなたの会社は「売上債権+棚卸資産−仕入債務」分だけの資金の立替をしているということになります。
この立て替えるべき資金のことが本来の意味での「運転資金」なのです。
そのため、多額の棚卸資産を保有し、受取手形などを通じて売上代金が現金化されるまで長期間を有する製造業や卸売業は「運転資金」が大きくなりがちな一方、棚卸資産の少ないサービス業や小売業であってもその場でお金をもらい、売り切りを前提とする生鮮品の販売業では、この「運転資金」は小さくてすみます。
当然、必要運転資金が小さい方が金銭的には有利で、必要運転資金が大きい方が金銭的には振りであるといえます。
また、この「売上債権+棚卸資産−仕入債務」という関係は変化がないため、資金の受取・支払サイト等に大きな変化がないとすると、売上そのものが大きくなると、このままの形で必要となる運転資金が大きくなるようになります。
つまり、売上高が大きくなればなるほど必要なお金が大きくなると言うビジネスモデルもあるということ。
このようなビジネスで無借金経営を目指すことはそもそも難しいと言うことがこの資金の構造を理解することでも理解できるでしょう。
本来の運転資金とは「売上債権+棚卸資産−仕入債務」。
売上が増えると必要となる運転資金もそのまま大きくなる。
「既に顧客となっている人に追加販売するのと、全く新たに顧客を獲得するのではどちらが簡単でしょうか?」
これまた聞くまでもないことですが、「既存顧客への追加販売」の方がはるかに簡単です。
そのため、「既存顧客に再販売するために必要なコストは、新規顧客に販売するためのコストの1/6ですむ」とも言われているのです。
この既存顧客への追加販売がしやすいかどうかは、取り扱っている商材の特性によって大きく異なります。
つまり、もともと一度購入した人が使い購入しやすい商材と一度購入したら次の購入にはかなりの時間が必要な商材があるのです。
この一人の顧客が何度も購入してくれる特性をリピート率といっています。
このリピート率が高い顧客は相対的に低いコストで安定的な売上を上げることができます。
そのため、リピート率の高い商材は金銭的に有利であり、リピート率の低い商材は金銭的には不利であることが分かります。
では、リピート率の高い商材にはどんなものがあるでしょう?
最も高いのはたばこのような常習性のある商材。それ以外でもコピー機のトナーなどの消耗品も非常にリピート率が高いといえます。
そのため、コピー機などは導入時の機器本体ではなく、この消耗品で高い利益を上げることが最初からビジネスモデルとして設計がされています。
このようなビジネスモデルの代表例がひげそりであるため、その代表的な会社の名前を取ってこのような導入時には余り利益を追求せず、その後の消耗品のリピート需要で高い利益を上げるビジネスモデルのことを「ジレットモデル」と呼んでいます。
一方、表札や看板のような商材や住宅のような高額商材は一度購入すると同じ顧客が次の顧客に販売するまでには非常に時間がかかるため、高いリピート率は望めません。
なお、一旦購入してくれた顧客が生涯にわたってもたらしてくれる利益のことを「ライフタイムバリュー」といいます。
リピート率が高い商材は一度購入してくれると長期間に渡って継続的に購入してくれるのでこのライフタイムバリューは大きくなりがちです。
そのため、顧客獲得のために当初の利益を上回るようなコストを掛けたとしても結果的に利益をもたらすことになるのです。
その代表例が、光通信などのブロードバンド接続サービス。接続が面倒なので、一度導入した人が他社への乗り換えは余程のことがなければしません。
また、一度利用を始めた人が途中でやめると言うこともまずないでしょう。そのため、ライフタイムバリューが大きいので、接続当初は料金無料などといった集客方法が可能になるのです。
これと全く同じなのがオフィスビルを借りたときに契約当初の数ヶ月間の家賃を無料とするフリーレント方式です。
これもオフィスビルが一度契約すると滅多に移転しないことに起因しています。
結果的にライフタイムバリューの大きい商材は、多額の販売促進費を掛けられるし、得られる利益に対して相対的に安い集客コストですむので金銭的には有利であるといえます。
リピート率が高い商材は安定的な利益獲得に寄与する。
リピート率が低い場合にはメンテナンスなどでリピート率を上げる工夫が必要。
さて、経費には大きく分けて2つのグループがあります。
一つは売上や生産量に応じて発生する「変動費」。
中小企業の場合「仕入高」「材料費」「外注費」の3つと割り切ってしまって良いでしょう。
もう一つは売上や生産量に関係なくかかる「固定費」。
消耗品費や通勤交通費、機械の減価償却費なども固定費ではありますが、中小企業の場合、人件費、支払家賃、支払利息の3つがもっとも割合としては高いことが多いでしょう。
この人件費が付加価値(企業が新たに生み出した価値)のうちどれだけ支払われているかを表したものが労働分配率といわれるものです。
人件費は固定費として売上高に関係なくかかるものですから、当然この労働分配率が高いと言うことはそれだけ簡単に赤字転落をしやすいということでもあり、売上変動への耐久力が小さいことを意味します。
特に、この人件費は今後の少子化と政府が社会保険の負担を企業に押しつけてくる姿勢から相対的に高くなることは間違いありません。その分今後コストが上がるリスクをはらんでいると言うことにもなるのです。
つまり、労働分配率等の比率で表される労働生産性の高いビジネスは金銭的に有利であり、労働生産性の低いビジネスは金銭的に不利であることがよくわかります。
労働生産性の良否は売上変動への耐久力を表す。
今後は相対的な人件費上昇のリスクもはらんでいる。
「儲かっているはずなのにどうもお金が足りない。」
これも中小企業経営者が多く口にする言葉です。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。
一つの原因は、先ほどの「運転資金」として資金が滞留してしまったため。
ただ、金額的にそれ以上に大きなものがあります。それが設備投資です。
この設備投資には、製造業であれば機械装置や工場そのもの、それ以外の業種でも一等地にオフィスを構える小売業であればそのオフィスの保証金、あるいはソフトウエアの開発なども広い意味での設備投資といえます。
この設備投資に資金が回った場合、その回収はその設備投資により生み出された利益によってなされます。
しかし、その設備投資資金がすぐに回収されることはごくまれであり、またやっとの事で回収したと思った頃には修繕が必要であったり買い換え時期であると言うことも多いでしょう。
つまり、設備投資は多額の資金を長期間にわたって資金を滞留させてしまうことになります。
当然のことながら、多額の設備投資が必要で、さらに常に最新の機械へのリニューアルが必要な精密機械の製造業では、この設備投資資金が大きくなります。
それこそリニューアルの必要な毎年数千万円の機械を購入しなくてはいけないと言うのであれば、工場に何台もの高級外車が並んでいるようなものです。当然手元の金は残りにくいのです。
一方で不動産仲介業などは極端に言えば携帯電話一本でも運営ができるので設備投資に必要な資金は小さくてすみます。
このことから、設備投資の必要性の低いビジネスは金銭的に有利であり、設備創始の必要性の高いビジネスは金銭的に不利であることが分かるでしょう。
なお、これはあくまでも「その会社が潰れやすいか」という視点での回答です。
今回の世界同時不況によってもっとも破綻したのがこの設備投資が必要であった製造業や不動産開発業であったことでも分かるはずです。
しかし、それ以前はこれらの業種の中には過去最高益を誇っていた会社もあります。
すべてを手作業で行っているよりも機械で行えば当然労働生産性は高く、さらに累積の生産量が増えることで製造コストが下がるので売上が増えるとスパイラル上に利益が上がりますからです。
つまり、この設備投資の必要性が高いということは、売上変動の影響をプラスにもマイナスにも受けやすいと言うことなのです。
設備投資は投下した資金の回収に長期間を有する。
設備投資の必要性が高いと売上変動の影響をプラスにもマイナスにも大きく受ける。
「あなたが船で釣りをしていたとします。 周りに漁船が多い場合と少ない場合ではどちらが漁の成果を期待できるでしょうか?」
普通は、ライバルの少ない方が良い成果を期待できるでしょう。
もちろん、いくらライバルが少ないからといって、お客様という「魚」自体がいなければ意味がありません。
理想は、「お客様が多くてライバルが少ない業種」ということができます。
ただ、そのようなおいしいフィールドにはドンドンとライバルが参入してきます。
その例として、ネットでの通販が始まった当時、かにや産直品の通信販売はかなり儲かりましたが、いまではあまりにライバルが多く、先行する数社以外ではなかなか満足な利益を上げることができなくなってきています。
しかし、新たな参入に対して一定の「ハードル」がある場合があります。
このハードルのことを「参入障壁」といっています。
もっとも大きな参入障壁は「法律上の規制」です。
例えば私たちのような税理士や弁護士、医師などはその資格を有していない人の新規参入は法律によってできません。
また、多額の設備投資が必要であったり、既にガリバーである会社に寡占されている業種には、参入が困難です。
今からトヨタ自動車やマイクロソフトのライバルとなるような会社を作ることは非常に難しいでしょう。
つまり、参入すること自体が難しいですが「参入障壁の大きいビジネスは、参入すると比較的金銭的には有利。
一方参入障壁が低いビジネスは金銭的には不利」であるといえます。
参入障壁自体は自分自身でコントロールすることは難しいものですが、企業レベルで新たな競合の参入を防ぐような努力、あるいは参入されても比較がされにくいためのオリジナリティの発揮が必要であると言えるでしょう。
ライバルの少ない参入障壁の高いビジネスは金銭的には有利。
ただし、ぬるま湯につかりすぎて危機感を忘れることも。
今のビジネスモデルそのものを変える事はできないかもしれませんが、少しでも手許のお金を残しそのキャッシュを有効活用することでさらに競争を有利に進めたいのであれば、この6つのキーワードに照らして取るべき方策を選択してみてはいかがでしょうか。
〈出典「会社の財務」吉澤 大 著 日経BP社〉
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